お知らせ

呉服業界の最新情報をお届けいたします。

着物需要の変化:「仲人」の衰退と「エコ」という理念

 

「令和」が始まり3年がたった。平成時代はおよそ30年続き、世界は大きく変化した。平成時代に、着物の需要と着物業界はどのように変化したであろうか。その変化を考察する。

ライフスタイルの変化:「仲人」という慣例の衰退と「エコ」、「SDGs」という理念:「エシカルファッション」としての着物

 平成元年は1989年にスタートした。1989年から2018年の着物需要の推移を掲載する

着物需要の推移

 1989年(平成元年)の着物市場規模は約1.5兆円であり、2018年(平成30年)は、1989年と比較しておよそ1/5の市場規模となった。ピーク時の1.8兆円と比較すると1/6である。
 1980年台に入ると徐々にレンタル化の流れが生まれ始めた。これに合わせて、大手小売店も1980年代にレンタルに対応するための店舗や部隊を作り始めた

 それでも1990年ごろには、まだ消費者も「着物は買うもの」、「レンタル品、古着はちょっと・・・」という人が多かった。こうした消費者が、新しい着物を購入する事で、着物市場は支えられてきた。上記のデータがその証左である。

 ただ、年々市場規模は縮小を続けた。これだけ大きな着物市場減退を招いた直接的な原因とは何か。また現在では、リサイクル着物に抵抗感を持つ人は少なくなり、着物ファンに受け入れられている。直接的な原因は何か?

 少子高齢化、可分所得減も原因ではあるが、主要な原因として二つ挙げたい。
① 生活様式の変化:結婚式の洋装化、簡素化。中でも「仲人」という慣例の消失
② 「エコ」に支えられた消費者意識の変化:大量生産・大量消費から循環型へ

①儀礼・式典などにおける生活様式の変化:「仲人」という機能の停止
 黒留袖などの式服市場に厳しい状況をもたらしたのは、結婚式で留袖などを着る人が減ってきたこと。その大きな原因に、結婚式の洋装化、簡素化、「仲人」という風習がなくなってきたこと、という点が挙げられる。
 会社の経営者・幹部・上司・地元の名士などは結婚式で仲人をする事が多かった。仲人として呼ばれる際には、夫婦で出席するため、出席者は奥様に留袖を購入していた。また仲人が機能している時代には、親族の既婚女性もまた留袖を着ていた。これは仲人に合わせるという慣例が機能していたからである。
 そうした式典によく呼ばれる以上、いつも同じ着物を着る事は、ステータスとしても都合が悪かった。特に女性は同じものを毎回着る事を好まない方が多い。従って、そうした儀礼によく参加する方は、紋付き袴や留袖などを定期的に購入していた。現在では、仲人がいる結婚式の方がまれである。
 また結婚式の嫁入り道具や、結婚後のあいさつ回りに必要とされた訪問着などの慣例も徐々に減少した。
 1990年代~2000年代初期においては、七五三の着物を呉服店に買いに来る消費者も一定数いたが、近年では、写真館(フォトスタジオ)を利用する人が増えている。振袖に関してもフォトスタジオ、レンタルショップを利用する人は増えている。

②大量生産社会から循環型社会へ:「所有欲」の変化、「エコ」の台頭
 平和な時代を迎え、日本は経済的に成長を果たし、社会がより高度に洗練された。国際社会においても、全般的に「大量生産、大量消費から、循環型社会へ」と言われるようになった。環境問題などが大きく取り上げられ、「エコ」(自然環境保全)という表現がステータスを得るようになった。二酸化炭素排出規制などが国際社会で取り組まれていることなどは、この最たる例であろう。1980~1990年代にかけて、「オゾン層破壊」という言葉を聞いた人も多いはずである。
 大量生産、大量消費という概念は、平成時代を通じて、あまりよい印象を持たれなくなった。1990年前後には「レンタル」、「リサイクル」という言葉も、「古着」と呼ばれてあまり良い印象を持たれていなかった。

 しかし、この「エコ」(自然環境保全)という概念に支えられて、「リサイクル」、「レンタル」は市民権を得るようになった。車や洋服に関しても「レンタル」、「リサイクル」、「シェア」という使い方は、市民権を有しており、抵抗を持つ人は少なくなっている。近年ではSDGsという言葉が定着するようになった。

 また最近では、ファストファッションの大量廃棄問題が取り上げられており、世界が新作を廃棄処分する事に対して疑問を抱いている。持続可能、環境に優しいファッションとして「エシカルファッション」という言葉も生まれている。エシカル(ethical)とは「倫理的な、道徳的な」という意味であり、そういった点では、親子を通して着られる着物、簡単に捨てられず、タンスに大切に保存されている着物は「エシカルファッション」と呼ぶことができるであろう。

 高度化された社会は、ネットを生み出し、優れた配送システム、流通システムを生み出した。信任された「ネット通販」や、必ず届く「宅配システム」が、リサイクル通販やレンタル市場、メルカリやヤフオクなどのCtoC(消費者間売買)を支えている。希望すれば、きちんと配達日時まで指定できる。こうした高度な流通形態が、ネット通販/ネットレンタルの伸長を支えている。家庭や在庫品として眠っていた「着物」が、活発に動く経路を確保したのである。

◆着物業界の課題として
 作り手が生産し、卸業、小売専門店が多くかかわる着物・帯などはやはり上代20~30万円の製品がボリュームゾーンとなる。しかし、こうした20~30万円の商品は、ネットでは買われにくい。単純にネットで決済にするには、金額が大きすぎて、消費者にためらいが生まれるからだ。誰でも気軽に、30万円程度の購入ボタンを押せるだろうか?
 こうした高額な商品を消費者に伝える為には、依然として対面型販売は重要である。その点は変わらない。ただ、対面型販売を実施するためのネット施策などがますます重要になっている。ネットで着物の魅力などの情報を発信し、潜在顧客に興味を持ってもらい、来店してもらう。そのためのきっかけとして、ネットやSNSを活用する重要性が、増している。

筆者:松尾俊亮

参考資料:着物業界誌「ステータスマーケティング」

その他の記事

着物市場規模に関する調査2022年

着物のアンケート調査一覧

着物業界データ一覧(市場規模など)

着物業界ランキング掲載「着物年鑑2021」:インバウンドの激減と今後

着物の未来を考える:西陣生産概況と産地数量の減少

生産者はなぜ儲からないのか?

浴衣はラフな日常着:浴衣特集・竺仙