着物の未来を考える:西陣生産概況と産地生産数量の減少
着物の未来:西陣帯の生産概況と生産数量の減少、着物サービスの多様化(※4月18日更新)
西陣帯産地は昨年、応仁の乱勃発550年目を迎え、「西陣」という呼称が誕生して550年の節目の年となった。昨年から今年にかけて、記念行事など多彩に開催され、着物市場活性化に注力している。
しかし、市場規模縮小に伴う西陣産地の諸問題も多く課題も山積している。帯地生産数量は減少を続け、15年前の全生産数と比べて約1/3に落ち込んでいる。(下図参照)
職人の高齢化は進み、60代以上が大半である。また後継者問題など伝統を継承していくうえでの諸問題に直面している。技術を伝承するために必要な若手の職人を採用する事が、経営上難しくなっている所が増えている。「職人としての収入だけでは生活できない人もいる」、というのも大きな問題である。
こうした諸問題を打開するために、環境整備とともに地域活性化の取組みも活発化している。
しかし組合員数も平成5年度には1059社(総出荷金額2014億円)だったものが平成28年度は365社(同292億円)と、13年で組合員数は3分の1に、総出荷金額はわずか14.5%にまで落ち込んでいる。同時期、平成5年度の小売市場規模は1兆3000億円、28年度は2880億円(22.2%)となっている。
◆着物を着る人口は増えているが
最近では、街着レンタルや、観光客の増加などで、着物を着る人を見る機会が増えてきている。着物を着て町を歩く人は18年前の2000年と比較しても、間違いなく増えている。これは大変喜ばしいことであるし、もっと多くの人に着物を気軽に楽しんでもらう必要がある。
しかし、あくまでこうした着物人口は、
・合繊系の着物
・レンタルショップ
・リサイクル品を楽しむ
層の増加であり、着物メーカー、着物の職人がその恩恵を受ける事は少ない。手織り帯証紙の発行枚数、帯地総数の点数も減少を続けている。また振袖や訪問着などの祝い事でのレンタル品の使用比率も年々上昇している。レンタルサービスの伸長は、「(着てみたいけれど)自分で着られない」、「メンテナンスが面倒」、「着ていく場所がない」というエンドユーザーの要望に支えられている。着物レンタルショップでは、着付け、メイク、ヘアメイク一式を気軽な値段で楽しめる。
また有名な観光地では、レンタル店舗が増加、企業間の切磋琢磨が起こっており、サービス・価格の多様化が生じている。エンドユーザーにとっては、利用しやすい環境が整備されている。未開拓の地域(エリア)にも、着物レンタルショップが集まる事で、エンドユーザーがその地域に集まりだす、という現象も起こっている。複数の企業が集まり、積極的な告知・広報を行う事で、徐々にエンドユーザーに認知されていくのであろう。
◆「所有」ではなく「体験」へ:選択肢の多様化
・所有欲の減退
昔は、着物、洋服を問わず購入する事が主流であった。車にしても同様である。ただ、最近では「レンタル」を利用する事が増えている。交通網が整備された都市圏では、車の所有欲も減退。「必要があれば」、レンタルやカーシェアという選択肢も広がっている。高度化したサービス群がこうした需要を創造・受容している。
アパレルでも、近年では「ファッションレンタルサービス」が展開されており、月替わりで自分の気に入った服を借りて楽しむ、というサービスが増えている。一定のサービス料を支払う事で、毎月新しい洋服を楽しむことができる。
これは、エンドユーザーの嗜好が「所有する事を楽しむ」ことから、「着る事(体験する)ことを楽しむ」という方向へ変化している事を示す。また社会・サービスが高度化し、繊維産業でも「レンタル」産業が成立し始めている(一昔前なら、「貸した商品が返ってこない」、「商品が破損した」などの問題が、産業化を阻害したであろう)。「所有」を放棄して、短期間・一時的な「体験」を廉価な値段で楽しむことを選択する人が増えているのである。
メーカー、問屋、小売店をの垣根を超えたあらゆる業態で、エンドユーザーの「変化する」ニーズに応える必要がある。
【新企画や新しい取り組みも】
このような状況下、メーカー各社もここ数年、企業体質改善に努め、生産体制や販売チャネルの再構築、新企画など、積極的な取り組みを行っている。今回の上位3社、川島織物セルコン・となみ織物・龍村美術織物は、他社をリード。しっかりとした戦略とキメ細かな戦術を展開している。
一方、産地問屋の状況も大きな変化はないが、こちらもますます寡占化が進んでいるようだ。大手の着物売上高は、今後、産地問屋としての位置づけをどう確立していくか、絶対的なものにするための施策が問われる。
西陣産地5ケ年売上推移(単位:100万円) | ||||||
2013年 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2013年/2017年比(%) | |
着物小売市場規模 | 290,000 | 295,000 | 2,900,000 | 289,000 | 288,000 | 99.3 |
西陣出荷額 | 17,318 | 17,611 | 17,209 | 15,228 | 14,347 | 82.8 |
帯 | 15,811 | 16,264 | 15,921 | 14,012 | 13,254 | 83.8 |
着物 | 1,507 | 1,347 | 1,288 | 1,216 | 1,093 | 72.5 |
西陣メーカ上位50社売上 | 16,854 | 17,156 | 16,666 | 16,289 | 16,061 | 95.3 |
西陣産地問屋20社 | 10,840 | 9,864 | 9,110 | 8,740 | 8,453 | 78.0 |
帯地・きものの証紙発行枚数 | (単位:枚) | ||||||
平成14年 | 平成17年 | 平成20年 | 平成23年 | 平成26年 | 平成27年 | 平成28年 | |
丸帯 | 380 | 350 | 1,292 | 1,304 | 100 | 200 | 300 |
袋帯 | 651,178 | 651,024 | 457,023 | 362,442 | 315,643 | 296,649 | 263,582 |
なごや帯 | 107,397 | 100,348 | 92,864 | 72,398 | 55,778 | 57,250 | 60,734 |
袋なごや帯 | 14,720 | 10,948 | 24,051 | 7,937 | 4,708 | 5,256 | 7,352 |
黒共帯 | 175,536 | 117,537 | 59,179 | 39,152 | 24,444 | 27,088 | 8,062 |
その他 | 9,720 | 12,710 | 9,568 | 4,814 | 7,992 | 3,790 | 4,388 |
帯地総数 | 958,926 | 892,917 | 643,977 | 488,047 | 408,665 | 390,233 | 344,418 |
爪掻本綴帯 | 2,295 | 2,148 | 994 | 1,328 | 1,044 | 334 | 1,026 |
きもの | 56,090 | 49,752 | 36,030 | 23,375 | 16,550 | 15,710 | 15,750 |
西陣手織り帯証紙発行枚数 | (単位;枚数) | |||||
平成16年 | 平成17年 | 平成20年 | 平成23年 | 平成26年 | 平成27年 | 平成28年 |
5,826 | 3,860 | 2,423 | 942 | 1,020 | 1,093 | 971 |
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